平歯車とは
平歯車(スパーギヤ)は、最も広く使用されている歯車の一種です。円筒形の構造を持ち、歯が回転軸に対して平行に切られています。主に回転運動を伝達するために使用されます。主に使われる場所:ギアボックス、ギアシフト部分などに使われています。
サイトウ工機では歯車製作のスペシャリストとして、多種多様な形状の平歯車の加工実績を非常に多く持っております。
別名:スパーギア
対応可能サイズ
Φ600まで

平歯車の製作事例




平歯車の構造と仕組み
構造
形状
平歯車は円筒形で、歯の形状は直線的です。これにより、製造が容易で高い精度が得られます。
歯数
歯数が多い方を大歯車、少ない方を小歯車(ピニオン)と呼びます。これにより、異なる回転速度やトルクを得ることができます。
モジュール
歯の大きさを表す指標で、ピッチ円の直径を歯数で割った値です。モジュールが一致しないと噛み合うことができません。
仕組み
回転運動の伝達
平歯車は、平行な2軸に取り付けられ、一方の軸からもう一方の軸へ回転運動を伝えます。大きな歯車から小さな歯車へ力を伝えると、スピードが上がり、トルクが下がります。逆に、小さい歯車から大きい歯車へ力を伝えると、スピードは下がり、トルクは上がります。
インボリュート曲線
現在の平歯車では、インボリュート曲線が用いられています。この曲線は滑らかな噛み合いを実現し、摩耗や騒音を減少させる特性があります。
各部位の名称
平歯車の各部位は以下のように分類されます:
- ピッチ円:
歯車の歯がかみ合う際の基準となる円で、歯車の直径を基準にして計算されます。 - 基準円直径 (d):
歯車の大きさを示す基準となる円の直径です。これは歯数とモジュールから計算されます。 - 歯先円直径 (da):
歯の先端を結んだ円の直径で、歯先から基準面までの距離を考慮します。 - 歯底円直径 (df):
歯の根元を結んだ円の直径で、歯底から基準面までの距離を示します。
- 圧力角 (α):
歯面の接点における半径線と接線とのなす角度で、一般的には20度が使用されます。 - 歯幅 (b):
歯車の軸方向における歯の長さです。 - バックラッシ:
かみ合った歯車間に設けられた遊びで、スムーズな動作を確保するために必要です。 - 頂げき (c):
相手歯車との間に生じる隙間で、歯元と相手歯車の歯末との高さ差を示します。
これらの部位は、平歯車が正しく機能するために重要な要素です。特にピッチ円や圧力角は、かみ合い精度や動作音に大きく影響します。
平歯車のメリット・デメリット
【メリット】
1. 製造コストが低い
平歯車はそのシンプルな形状から、製造が容易でコストを抑えることができます。特に、ホブ盤などを用いた量産が可能です。
2. 高い伝達効率
平歯車は高い伝達効率を持ち、ほぼ完璧なパワーとエネルギー伝達が可能です。これにより、様々な機械において理想的な選択肢となります。
3. 設計のシンプルさ
歯が軸に対して平行に切られているため、全体の構造がシンプルになり、設計が容易です。これにより、スラスト荷重が発生せず、軸受の構造も簡素化されます。
4.耐久性
基本設計により摩擦が少なく、耐久性が高いです。多くの用途で信頼性があります。
【デメリット】
1. 騒音の発生
平歯車は非常に密接に噛み合う必要があるため、高速回転時には大きな騒音を発生します。このため、騒音低減が重要な用途では使用できないことがあります。
2. 強度の限界
平歯車は軽度から中程度の応力に適しており、高負荷の作業には不向きです。過度の負荷をかけると摩擦が増加し、摩耗しやすくなります。
3. 滑らかさの欠如
はすば歯車などと比較すると、駆動の滑らかさや歯面の強度に劣るため、高精度な動力伝達が求められる場合には不利です。
平歯車の使用例
平歯車(スパーギヤ)は、さまざまな機械や装置で広く使用されています。以下に具体的な使用例を挙げます:
自動車のトランスミッション
平歯車は自動車のミッションにおいて、エンジンの動力を車輪に伝える役割を果たしています。特に、二輪車や農業機械のミッションにも使用されており、動力伝達の効率を高めています。
産業用機械
平歯車はロボットや各種産業用機械にも利用されています。これにより、機械の動力伝達がスムーズになり、作業効率が向上します。
おもちゃ
子供向けのおもちゃ、特にぜんまい式のおもちゃなどでも平歯車が使われています。これにより、動力を効果的に伝達し、遊びの楽しさを増しています。
家庭用電化製品
ハンドミキサーやコーヒーミルなどの日常的な家庭用電化製品にも平歯車が組み込まれており、これらの製品の動作を支えています。
発電機
発電用モーターを回すために平歯車が使用されており、特に増速機構として重要な役割を果たしています。これにより、発電機が効率よく稼働し、電力供給が行われます。
これらの例からもわかるように、平歯車はそのシンプルな構造と高い汎用性から、多岐にわたる分野で重要な役割を果たしています。
平歯車のモジュールと寸法
モジュールの定義
モジュール(m)は、歯車のサイズを表す指標であり、ピッチ円の直径(d)を歯数(z)で割った値です。式で表すと、m = d / z となります。モジュールは、歯車が噛み合うために等しくなければならず、一般的には整数または簡単な少数の系列として規格化されています。主なモジュールには、1, 1.25, 1.5, 2, 2.5, 3, 4, 5, 6, 8, 10, 12などがあります。
寸法計算
平歯車の寸法は、以下のように計算されます:
❶ ピッチ円直径(d): d = m × z
これは、歯車の中心円であるピッチ円の直径を求める式です。モジュール(m)は歯の大きさを示し、歯数(z)と掛け算することでピッチ円の直径が得られます。
❷ 歯先円直径(da): da = m × (z + 2)
歯先円直径は、歯の先端を結んだ円の直径です。この計算式では、歯数に2を加えた値にモジュールを掛けています。これは、歯先がピッチ円よりも高い位置にあるためです。
❸ 歯底円直径(df): df = m × (z - 2.5)
歯底円直径は、歯の根元を結んだ円の直径です。ここでは、歯数から2.5を引いた値にモジュールを掛けています。これは、歯底がピッチ円よりも低い位置にあるためです。
❹ 歯末の丈(ha): ha = m
歯末の丈は、歯の先端からピッチ円までの高さであり、モジュールと等しいです。
❺ 歯元の丈(hf): hf ≧ 1.25m
歯元の丈は、歯底から基準円までの高さであり、モジュールの1.25倍以上でなければなりません。これは強度を確保するためです。
❻ 全歯丈(h): h ≧ 2.25m
全歯丈は、歯末と歯元のたけを合わせたものであり、モジュールの2.25倍以上である必要があります。
❼ 頂げき(c): c ≧ 0.25m径(df): df = m × (z - 2.5)
頂げきは、歯元と相手歯車の歯末との間に必要なクリアランスであり、モジュールの0.25倍以上でなければなりません。
実際の計算例
例えば、モジュールが3で、24枚の歯数を持つ場合:
❶ ピッチ円直径
d =3×24=72 mm
d =3×24=72 mm
❷ 歯先円直径
da =3×(24+2)=78 mm
da =3×(24+2)=78 mm
❸ 歯底円直径
df =3×(24−2.5)=64.5 mm
df =3×(24−2.5)=64.5 mm
これらの計算式を用いることで、特定の条件下で平歯車の各寸法を正確に求めることができます。これにより、機械設計や製造プロセスにおいて必要な精度と強度を確保することが可能になります。平歯車は多くの機械装置で使用される基本的な要素であり、その設計には正確な寸法計算が不可欠です。
圧力角
標準平歯車では、圧力角は一般的に20度です。この圧力角は、歯が基準線に対してどれだけ傾いているかを示す重要なパラメータです。平歯車は機械要素として非常に重要であり、多くの産業で使用されています。正確な寸法計算と適切なモジュール選定が、機械の効率や耐久性に大きく影響します。
平歯車のモジュール計算の基礎
モジュール計算は、平歯車の設計において非常に重要な要素です。モジュール(m)は、歯車のサイズを表す指標であり、ピッチ円の直径を歯数で割った値として定義されます。具体的には、次の式で表されます:
モジュールの計算式: m = d / z
ここで、dはピッチ円直径、zは歯数です。この関係により、モジュールが同じであれば異なるサイズの歯車同士でもかみ合うことができます。
平歯車の設計において、モジュールは以下のような役割を果たします:
- 寸法の決定:
モジュールが決まると、ピッチ円直径や歯先円直径、歯底円直径などの寸法も自動的に決まります。例えば、モジュールが3で歯数が20の場合、基準円直径dは60mmとなります。 - かみ合いの確保:
同じモジュールを持つ歯車同士は互いにかみ合うことができるため、異なるサイズでも適切に動作します。これにより、機械設計者は異なるギア比を持つシステムを構築することが可能になります。 - 強度と耐久性:
モジュールが大きいほど、歯車の強度が増し、高負荷に耐えることができます。これは特に産業機械や自動車など、高い耐久性が求められる場面で重要です。
実際の計算例として、モジュールm=3、歯数z=20の場合の各種寸法は以下の通りです:
❶ ピッチ円直径
d = m × z = 3 × 20 = 60mm
❷ 歯先円直径
da = d + 2m = 60 + 6 = 66mm
❸ 歯底円直径
df = d - 2.5m = 60 - 7.5 = 52.5mm
このようにして、平歯車の設計ではモジュール計算が基本となり、その結果として得られる寸法や特性が機械全体の性能に大きく影響します。
モジュール以外の歯車設計要素
歯車設計において、モジュール以外の重要な要素は以下の通りです:
圧力角
歯車の歯形を決定する要素で、一般的には20度が使用されます。圧力角が大きいと、歯車の強度が増し、かみ合いがスムーズになりますが、バックラッシ(歯と歯の間の隙間)が増える可能性があります。
材料
歯車の材料はその強度や耐久性に大きく影響します。一般的な材料には鋼や合金鋼があり、用途に応じて熱処理(焼入れ、調質など)が施されます。これにより、歯車の硬度や耐摩耗性が向上します。
精度
歯車の精度は、その動作の滑らかさや騒音レベルに影響します。高精度な歯車は、より静かで効率的な動作を提供します。精度は主に歯形誤差、ピッチ誤差、歯すじ誤差などで評価されます。
バックラッシ
歯と歯の間の遊びを指し、適切なバックラッシはスムーズな動作を保証します。バックラッシが大きすぎると騒音や振動が増え、小さすぎると摩擦が増えて効率が低下します。
平歯車の選定基準
材料の選定
平歯車の材料選定は、使用環境や負荷条件に応じて行われます。一般的には、鋼、樹脂などが使用されます。樹脂製の歯車は軽量で自給油性があり、低負荷の用途に適しています。一方、鋼製の歯車は高い強度と耐久性を持ち、中負荷から高負荷の用途に向いています。下記に主な材質を紹介します。
合金鋼
ステンレス鋼
プラスチック
MCナイロンやポリアセタール(POM)などの樹脂材料も使用されます。
軽量で、自給油性を持ち、摩耗にも強い特性があります。軽負荷用途や静音性が求められる場合に適しています
黄銅
C3604などの快削黄銅も使用されることがあります。
耐食性と加工性に優れ、小型歯車や軽負荷用途に適しています
ギヤとの組み合わせ
平歯車は他の歯車と組み合わせて使用されることが多く、歯数比や圧力角、モジュールなどのパラメータが重要です。圧力角が同じであることが望ましく、これによりかみ合いの精度が向上し、摩耗や振動を抑えることができます。
耐久性と硬度の考慮
耐久性と硬度は、材料の性能や寿命に直接影響を与えます。高い耐摩耗性を持つ材料(例:浸炭焼入れされた鋼材)が選ばれ、これにより歯面の摩耗を防ぎ、長期間にわたって安定した性能を維持することが可能です。
圧力と回転速度の関係
平歯車は回転速度が高くなるほど摩擦熱が発生しやすくなります。このため、高速回転時には適切な潤滑が不可欠です。圧力角や接触比率も影響を与え、圧力角が大きいほど接触面積が増え、摩擦も増加しますが、かみ合い率も向上します。
これらの要素を総合的に考慮することで、平歯車の性能を最大限に引き出すことが可能となります。適切な選定により、機械システム全体の効率と耐久性を向上させることができます。
まとめ
平歯車は、その単純な構造と高い効率性から、様々な機械システムで広く使用されています。モジュール、圧力角、材質、精度など、多くの要素が平歯車の性能に影響を与えます。これらの要素を適切に選択し、設計することで、目的に合った最適な歯車システムを構築することができます。
平歯車の設計と選定には、理論的な知識と実践的な経験の両方が必要です。常に使用環境や要求される性能を考慮し、適切な平歯車を選択することが、機械設計者にとって重要な課題となります。